あらすじ
愛媛の小さな港町・三津浜の造船所で暮らす泰良(柳楽優弥)と弟の将太(村上虹郎)。いつもケンカばかりしている泰良は、ある日突然、町から姿を消し、松山の中心街で強そうな相手を見つけてはケンカを売るようになる。そんなある日、裕也(菅田将暉)という青年から声を掛けられた泰良は、裕也と一緒に通行人に無差別に暴行を加え、車を強奪。その車に乗りあわせていた少女・那奈(小松菜奈)も巻き込んで松山市外へと向かう。(映画.com)
主役の泰良が、理由もなく無差別に街の人々にケンカを売って殴りまくる、少年バイオレンス系映画。
こういうジャンルが苦手な人にはあまりお勧めできない映画だが、見どころもあってなかなか面白かった。
①泰良の無敵ぶり
柳楽優弥演じる泰良。とにかく、色々な人にケンカを売り殴られまくる。最初は港町の同級生達。次にバンドマン、高校生、チンピラ、キャバクラのボティガード(?)・・・etc
普通だったら、骨もかなり折れて歩くことはおろか、起き上がる事も不可能なくらいのダメージを負っているのだが、何事もなかったかのようにすぐに起き上がって、やられた相手に勝つまでしつこく殴りかかってくる。
「なんで、相手の居場所がピンポイントで分かるの?」ってくらい、しつこく追跡してくる。暴力描写もさることながら、その異常な執念にも恐怖を感じる(*´Д`)
ただ、この映画を面白くするためには、泰良だけはこのチート設定が必要であった。
②裕也のダメっぷり
菅田将暉演じる高校生の裕也。この俳優は軽薄な役をやらせると本当にうまい。長い髪をちょっとオシャレっぽく結んでみたり、言葉遣いなども10代、20代前半くらいの人が使いそうな話し方でリアリティがある。
そして、仲間が殴られているのに「もう止めた方がいい・・・(;´Д`)」と小さめの声で、泰良に言うだけで本気で止めようとしてない。(明らかに、自分が殴られるのを嫌がっている)
「こいつ、本当にダメな奴だな」と思うが、少なくとも前半までは嫌な感じはなく、コミカルに見れるのも菅田将暉の演技力がなせる技なのかもしれない。
③暴力性が他者へ感染
自分はこれこそが、この映画が一番伝えたいメッセージかなと思った。
泰良の暴力に合うまではごく普通の生活を送っていた人達が、暴力を他者に振るうようになる場面が幾つもある。
・将太
それまで大人しかった泰良の弟。しかし、最終的には仲の良かった友人と仲違い。それをきっかけに、最終的には鉄パイプで相手を殴ろうとする。
・裕也
ケンカを止める事もできないような小心者だったが、泰良の異常な暴力性に魅せられ「一緒にデカい事をしよう」と一緒に行動を開始。
そこから、街の人々や拉致した那奈をターゲットに無差別に暴力を振るうようになる。
・那奈
万引きしたり、同僚のホステスに嫌がらせをしたりと人間性は低いが、ただのホステス。それが拉致されたのをきっかけに最終的には2人も殺してしまう。
特に最後、これまで散々暴力を振るわれていた裕也に対する反撃は、相当の恨みが籠っていた。
・キャバクラのボーイ
那奈が働くキャバクラのボーイ。最初はビビりながらも、なんとかケンカを止めようとして蹴りを入れようとして自分がこけるというヘタレ状態。
ところが、徐々に暴力に感化される。最終的には店でケンカしだした将太達を殴って、店から追い返す事を、誰に指示されたわけでもないのに普通に行うようになる。
そして、これら暴力に共通点があり「基本、自分より弱い相手。もしくは、武器などをもって相手より自分が優位な状態になった相手にしか暴力を振るわない」
将太 → 鉄パイプで武装
裕也 → 自分からは女性しか狙わない。男にケンカ売る時は泰良の護衛がある時限定
那奈 → 裕也が瀕死の重傷で、反撃不可能と分かっている状態での暴力
キャバクラのボーイ → 自分より年下で弱そうと判断したから暴力
泰良は喧嘩中毒者のようなものなので、どちらかと言えば強い相手に暴力を振るっている。しかしほとんどの人は上記のように「自分が勝てると確信している相手にしか暴力を振るわない」という、一種の人間が持つ「卑怯さ」も描いている。
そしてもう一つ重要な事が。それは「全ての人間が、無意識にこのような暴力性を心にもっている。この映画のような粗暴な行いをする可能性が誰にでもある」という危険性にも触れている。
では、どうしてほとんどの人間がこのような粗暴な行為をせず過ごせるのか?
それが最後に出てきた「喧嘩神輿」が象徴的なワードなのかと思う。
喧嘩神輿とは「現実世界での、人間の暴力性を解消する機会」を表している。
他の機会として、スポーツや試験の成績、仕事の成績、相手より金持ちになる・・・etc
要は何らかの行いを通して「他者に勝利する」事で解消できている。では、勝てない人は・・・?
これこそが、今問題になっている「勝ち組、負け組」等に人を分ける社会の概念。負ける人に心に潜む暴力性の発露の場がなく、むしろ募っていく事で大きな問題に繋がるリスクがある。
この映画は、そんな目を背けたくなるような重いテーマに向き合った映画でもあったように思えたが、実際どうなんだろうか・・・?(;^ω^)