映画「怪物はささやく」 4つの物語が伝えたい事とは?(ネタばれあり)

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元々は児童文学である「怪物はささやく」の映画版

自分は本は未読。

 

あらすじ

舞台はイギリス。13歳のコナー・オマリーは末期がんに苦しむ母親と2人暮らし。

他の家族に祖母がいるが、潔癖症な祖母とは折り合いが悪く、会えばいつもケンカ腰。

父親はいるがロサンゼルスに住んでいる。はっきり言えないが、この父親はアメリカで別の女性と結婚して、娘もいるようなので離婚しているのかな!?(腹違いの妹がいるような事を言っているシーンがあった)

学校では同級生に毎日のようにいじめられる。そんな辛い日々を過ごすコナーのもとに突如、家から見える巨大なイチイの木が毎日12時7分になると、怪物になって現れる。

怪物は言う「これから3つの物語をお前に話す。4つめはお前の真実の物語を話せ」

 

物語1「王妃と王子の物語」

ある王国で王様は新しい王妃を娶った。その王妃は魔女だったが、老衰で弱っている王様を普通に看病し、最期までそれを行った。

王妃の事が気に入らない王子は自分の愛する女性を自分で殺して、「魔女がやった」と国民に伝える。

さらに、「王が死んだのも魔女の仕業」と言いふらす。国民も魔女である王妃に不信感があった為、その情報にのり魔女を征伐。王子は人殺しの嘘つきでありながら、多くの人にとって「英雄」となる。

この物語は「人間の多面性」を語っている。人は善と悪、喜怒哀楽全ての要素を全ての人間が持っている。

一般に「いい人」「悪い人」と言われるても、実は人間に根本的な違いはなく、全ての人間が複数の顔を持っている事を伝えている。

 

物語2「薬剤師と牧師の物語」

欲深い面はありながら、人々の役にたつ薬を調合し続けてきた薬剤師。しかし、その薬剤師を意図的に迫害しようと、人々に「マインドコントロール」とも言える演説を行った牧師。

その牧師の愛娘2人が病にかかる。それを治せるのは薬剤師がイチイの木を基に作りだした薬のみ。イチイの木で薬を作ることを批判し、禁止した牧師は「自分の娘が治るのなら木を切ってもいい」と懇願する。

しかし、結局娘は死んでしまう。

この物語は「人の信念、あるいは信じている事はもろく壊れやすい」という事。

信念を持つなと言っているわけではないが、強い信念が持つ負の側面にも触れている。自分が「これは絶対こうだ」と思っている事が、「本当にそうだろうか・・・?」と時には振り返る勇気も必要。

これはコナーが「新しい治療で絶対母親は治る」と信じている事が、実は自分でも内心脆い考えだと気づいている事を表している。

 

物語3「誰にも見えない男」

この男は透明人間ではなく、周囲の人間が男を徹底的に無視した為そのように感じてしまう。その状況に男は耐えられないという話。

単にコナー自身の事を表している。と同時に先の2つの物語は「人が他者と関わる事の苦しさ」も伝える内容だったが、これ程他人との関りを断絶されても人は生きていけないという「人間の矛盾」も示している。

コナーにしても、ネガティブな存在である祖母やいじめっ子。しかし、彼らが全くコナーと関わらなくなっても辛い状況になる事を示している。

実際コナーは、自分を罰する為、わざと自分をいじめるように、いじめっ子に仕向けていた。

 

最後の物語「コナーの真実の物語」

末期がんの母親に「助かってほしい」と強く願う一方で「早く死んで、自分をこの苦しい状況から解き放ってほしい」と矛盾した思いを認めるのが最後の物語。

なぜ、自分の本心を認める事が必要だったのか?それはコナー自身が、自分の心を苦しみから救うため。

最愛の母親に「早く死んでほしい」と思う事自体に、強烈な罪悪感を抱いているのが苦しみの原因。

しかし、これまで語ってきた物語は人間の「多面性」「信念の脆さ」「矛盾」

つまり、母親に早く死んでほしいと思う事に苦しむ必要はない。むしろ、母親を愛するが故にそのような相反する感情が強くなってしまう事をイチイの木の怪物は優しく教えてくれる。

 

そして最後に怪物の正体が。それは昔母親に読んでもらい、コナーの心の奥底に眠っていた物語。それが自分の心の世界(妄想のような)で具現化したもの。

これは、この家で代々受け継がれてきた物語でもあるのだと思った。

 

感想

ジャンルは「ダークファンタジー」となっていたが、ダークさはほぼ皆無。

一方で児童文学にしては非常に哲学的で、難解なお話にも思えた。ただ、小学校高学年くらいの子どもと一緒に見て「あのシーンはどういう意味だったの?」という質問に大人も一緒に考えながら話すには非常に深くていい映画だった。

実際大人だけで観ても、人間がもつ内面の深さを考えさせられる良作であり、一度観ても損はないと思った。(*^^)v

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