あらすじ
クマは幼少期に脳性麻痺を患い、手足を思うように動かせず車椅子生活をしている。ただし彼はセックスが大好き。身体障害者にとっての性への理解を訴えるために活動している。そんな彼が、ある日、美少女・ミツと出会う。障害者であるにもかかわらず生き生きと生きているクマに、ミツは「あなたとわたしみたいなのが幸せになれたら、それってすごいことだと思わない? 」「それを世界に証明するの!」。どんな不可能も可能にする、ハチャメチャだけど純粋な、クマとミツの“最強のふたり”のラブストーリーがいま始まる! (HPより引用)
この映画は自身も子どもの頃から脳性麻痺を患い、障害を負いながらも、障碍者の「性」に関して啓発活動などを行っている熊篠慶彦氏の自伝をモデルにしている。
一見すると、障害者の性の実態について描いている映画かと思うが実際は異なる。
ちなみに、障害者の性の問題に関しては、あまり世間的に注目度は高くないが、以前から議論はされている問題。
詳しく知りたい方は調べてみることを勧めたい。
自分はこの映画は人間にとって大きな2大要素である「体」と「心」にそれぞれ障害を負った者同士が、お互いのハンディを補い合いながら、愛を育めるのか?というテーマがあると思った。
この映画のヒロイン「ミツ」は過去の両親の心理的虐待などから、「人格障害」という心の障害を負っている。
人格障害というと、「人間性が低い」ような差別的な意味合いが強くなるので、自分達の業界では「パーソナリティ障害」という事が多い。
パーソナリティ障害障害とは?
人間は成長していく中で、「十人十色」といわれるような様々な個性を獲得しながら発達を続けていきます。前向き・陽気・几帳面・怒りっぽい・神経質・おおらか・飽きっぽいなど、性格を表す言葉は数え上げればキリがありません。
誰もが様々な性格をもっている中で、中にはその一部分が極端に偏ったようになり、社会生活を送る上で自分も他人も苦しませてしまうようになる人がいます。
こうした人々のことを精神医学の分野では「パーソナリティ・ディスオーダー」と呼ぶようになり、日本では「人格障害」と呼ばれるようになりました。なかでも、気分の波が激しく感情が極めて不安定で、良い・悪いなどを両極端に判定したり、強いイライラ感が抑えきれなくなったりする症状をもつ人は「境界性人格障害」に分類されます。近年では「境界性パーソナリティ障害」とも呼ばれています。
「境界性」という言葉は、「神経症」と「統合失調症」という2つの心の病気の境界にある症状を示すことに由来します。
例えば、「強いイライラ感」は神経症的な症状で、「現実が冷静に認識できない」という症状は統合失調症的ものです。境界性人格障害は人口の約2%に見られ、若い女性に多いといわれています。(医療法人 一向会 HPより)
急に激しい癇癪を起したり、それが原因で事件になる等社会生活を送る上で障害になる症状が出現する。
映画で二人が、それぞれのハンディを補い合ったシーン
①歩道の段差を、ミツが介助してあげる
クマが車いすで歩道の段差をなかなか超えられず困っている。健常者にとって何気ない段差も、車いすの人にはとてつもない障害になる。
この辺りは、この二人の基本的な役割となる。しかし、その後クマが「止めろ」言っているのに、ミツは構わず坂を急降下。
やりたいと思ったら、その結果どういうリスクがあるのか考えにくいのもこの病気の一つ。何気ない行為も、平和に終わらない辺りはこの二人ならではかもしれない。
②法事でミツが大暴れ
法事の何気ないシーン。だが、「クマのせいで、どれだけの人が辛い思いをしたか」という意味合いの事を延々と本人の前で語り続ける周囲の人達。
この人達は意図的に「クマを傷つけよう」という気持ちはなく、単に昔話を懐かしく語る程度のテンション。
だからこそ質が悪く、言われている側はひたすら「申し訳ない」という気持ちを抱かせる。ある意味、相手を貶める行為にもなる。
そんな中、ミツがブチ切れ「帰るよ」とクマに言う。
これはクマの悶々とした感情、ある意味「この状況をぶっ壊したい」という心の奥底にある本音を、ミツが代弁してくれたように思えた。
しかし、映画の後半はミツのメンタルが不安定になる。
クマのヘルパーを割ったワインボトルで「殺すぞ」と脅したり、海に遊びに行った時クマと入水自殺を図ろうとしたり・・・(-_-;)
段々と、クマもミツのメンタルをフォローしきれなくなってくる。
ラストの方はツッコミ所満載なので割愛(笑)
この映画はとてもいい題材を扱っているだけに、もう少し内容を深めてもらいたかった。
基本的には「エンターテイナー」映画である為、現実感のあまりない展開に少し残念な部分があった。
現実にも身体障害者と精神障害者のカップルや夫婦はいる為、そういった人達がどのようにして今生活を送っているのか?
そういった点をもう少し掘り下げても良かったように思う。
一方で、あまりに内容が重くなると見られなく為、あえて大人の事情でこのようなポップな展開にしたとも考えられる。
しかしそれはこのようなテーマに対して「真剣に向き合う事への拒絶」にも感じる。
今回の映画とは、また違った形でこのテーマでの映画ができれば観てみたい。