今朝驚きのニュースが入った
鹿児島県鹿屋(かのや)市の住宅型有料老人ホーム「風の舞」で、今月中旬までの約1カ月間に高齢の女性入居者6人が相次ぎ死亡していたことが21日、県などへの取材でわかった。ホーム側は医療面の対応は適切だった、と説明したが、介護職員が全員退職し、夜間は施設長1人で対応していた。県が調査を進めている。
県などによると、今月上旬、市に「施設で死亡が相次いでいる」と通報があった。16日に県が老人福祉法、市は高齢者虐待防止法に基づき、立ち入り検査を行った。
同ホームは2012年に開設。死亡者が相次いだ当時は、高齢者約40人が入居していた。住宅型有料老人ホームは、外部の訪問看護や介護サービスを利用するのが前提。市によると、同ホームには、隣接する訪問介護事業所から介護職員が派遣されていた。その職員が今年8~9月にかけて全員退職したため、日中は系列施設から派遣された看護師が、夜間は同ホームの施設長が1人で対応していたという。
同ホームを営む「風の村」グループ統括の波江野力(つとむ)院長らが開いた記者会見によれば、死亡した6人は85~97歳の女性。死因は老衰2人、消化管出血、腎不全、心不全、誤嚥(ごえん)による窒息が各1人。3日間のうちに4人が死亡した。6人のうち5人が点滴で栄養補給をしていたという。死亡診断書はすべて、医師の波江野院長が書いたという。
会見で「人員が減り、サポートができなくなったという点では適正ではなかったが医療面に関しては十分」と説明。職員の一斉退職や夜間の1人態勢と死亡との関係を否定した。(大崎浩義)
(引用 朝日新聞デジタル)
住宅型老人ホームとは?
一般の人には「高齢者施設」と一口に言っても、特養やグループホーム、サービス付き高齢者住宅・・・etc
自分がケアマネジャーという仕事をしていてもよく利用者や家族に「違いが分からない」と言われる事が多い。
そこで、今回事件が起きたこの「住宅型有料老人ホーム」について簡単に説明させていただく。
老人ホーム等と名前がついているので、非常に誤解されやすいがこの「住宅型有料老人ホーム」は正確には「ただの住居」というのが前提にある。
その上で施設で食事を用意したり、余暇活動などがあるが基本は住居である為、特に介護を行う事を最初からは前提としていない。
だから外出も、或いは入居者の家族がその人の部屋に泊まるのも原則自由。
もし、介護が必要になった場合は在宅の介護サービスを別に利用してくださいねというのが基本スタンス。
・・・しかし。実際にはこの住宅型には、あきらかに常時介護が必要な高齢者が入居していることが多いのが実態。
経営は医療法人や介護事業者などが行っている為、自事業所のサービスを半ば当然のように使わせたり、実態として、夜勤介護スタッフが介護にあたっているなんて施設も多い。
そうなると、本来は「住宅型」でなく「介護付き有料老人ホーム」として届け出をしなければならない。そうすることで、介護費用部分などは介護保険から9割公費で支払われる。
じゃあ、なぜそうしないのか?
その一番の理由は「人員基準等、国がこれだけ配置しなさいという法律に縛られない」
これが、一番大きい。この業界では人件費の負担が大きいが、人がいないと成立しないビジネスモデルでもある。
しかし、介護保険で運営する場合は国がサービスの価格を全て細かに決めてしまっている為、どうやってもあまり収益が上がらない。
そこで、極端に人を減らして、少しでも収入アップを図りたい経営者がこの手の「エセ住宅型有料老人ホーム」の運営に走っている現状がある。
今回何が問題で、それがなぜ起きたのか?
自分は大きく2つあると思う
①医療面の対応について
今回死亡した6人の内、2人は老衰。
しかし、残りは腎不全、心不全、さらには誤嚥による窒息。
介護・医療業界では「看取り」「終身ケア」といって、もうどんな医療処置をしてもほぼ助かる見込みのない人に最期を穏やかに迎えようとするケアがある。ガン末期の人などが、自宅で穏やかな最期を皆で迎えようとするのもこれに当てはまる。
しかし、腎不全、心不全、窒息に関してはどうなのか?という疑問が残る。自身の医療機関で診れないと判断した場合は、別の医療機関などへ繋ぐ事はしなかったのか?
波江野院長は「医療面に問題は無かった」と言っているが本当にそうか?
これに関しては、地域の他の医療機関と日頃から連携が取れていないのが問題。実際こういう医療機関に入院してしまった場合、適切な医療を受ければ助かった命が助からないのだから大問題。
しかし、医療に関しては医師会等の圧力もあって、あまり本腰を上げて調査ができないのが現状。
だが、これからの時代、いつまでもそのような体制が果たして許されるのか?
②職員が一斉退職。
今回一番大きいのがこの問題だろう。
日頃入居者の介護をしていた介護職員が全員一斉退職。
確かに退職者が続く時期というのはあるが、一斉退職はあまりない。
過去この施設で務めていたパート職員によると「人手が足りなくて皆忙しさを感じていた」との事。
この時起きていた問題は
・忙しさによる職員の心身の負担の増加
↓
・それにより、人間関係も悪化
↓
・この辛い現状を誰にも相談できない、分かってもらえない
↓
・だから次々職員は辞めてしまう
↓
・さらに、負担の増加
・・・・・どうだろう。まさに「地獄の負のスパイラル」状態である。
この時経営者がやらなければいけなかった事は
・職員と日頃から密なコミュニケーションを取り、信頼関係を築く事
・そして、現状何が問題で、どんな事で苦労しているのか
・その課題に対して、経営者としてどう対応を努力していくのかを示す
・受け入れ継続が難しいと判断した場合は、別事業所に受け入れを依頼する
一番の要は「職員との信頼関係作り」
これが本当の意味できていれば、そもそも一斉退職等起きない。
しかし、この業界は残念な経営者が多く、介護職員を奴隷労働者のようにしか扱わない人が多い現状がある。
そうした経営者のマインドはこんな感じ。
「介護等、誰でもできる仕事。お前らの代わりなんていくらでもいるんだ。文句があるなら辞めてもらって結構」
自分も介護職として働いている時代、このような言葉や扱いを受けて、どれだけ辛かったか。
こういう上から目線の高圧的な経営者は多いが、結構医者にもこのタイプが多い。
医者は「常に自分が一番偉い。自分に逆らう人間など存在してはいけない」
少し穿った考えだが、このように考えている人が多い。特に年配の医者に多い。
別に医者に限らないが、このような思考パターンしか持ち合わせない人は、職員と信頼関係等まず築けない。
彼らは力で人を従える事しか考えない。そのような人の元には本当に必要な情報が集まらず、結果急にストライキに近い形である日、職員が一斉にいなくなってしまう最悪の事態に陥る。
しかし、本当に信頼関係ができていれば「今どのような問題が起きているのか」「どうすればそれが解決できるのか」
完全に解決できなくても、経営者が一生懸命自分達の為に努力している姿を見せる事ができれば、職員はついてくる。
これが分かっていない経営者が多いのが、この業界の大きな問題でもある。今回の問題も背景にはそういった事情が必ずある。
波江野院長は、今後もこの老人ホームを経営する気があるなら、0から始める気持ちで。もう一度職員と心の底から話し合えるような信頼関係を築くことにまず努力をしてほしい。
そうでなければ、結局は同じような事の繰り返しになるだろう。