レスリングの伊調馨選手に関するパワハラ告発問題で、告発された日本レスリング協会の強化本部長・栄和人氏が世間で注目を浴びているなか、3月15日に栄氏が所属する至学館大学の学長で日本レスリング協会副会長の谷岡郁子氏が記者会見を開いた。
ただ、この記者会見が色々まずい点が多かったのでちょっとまとめてみる。
①「パワーの無い栄和人のパワハラって何?」発言
谷岡学長によると、至学館大学の施設を使わせるかどうかの権限は自分にあり栄氏にはない。=栄氏にはパワーをかけることなんてできない。というちょっと短絡的とも思える発想から上記の発言になっている。
これは完全にパワハラの定義を理解できていないと思われても仕方がない。
参考に厚生労働省によるパワハラの定義は
「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう。上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる」
パワハラの典型例として
- 暴行・傷害(身体的な攻撃)
- 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
- 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
- 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
- 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
- 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
さらにパワハラの類型として
- 「公開叱責(多数の面前での叱責)、人格否定」
- 「感情を丸出しにするモンスター上司、給料泥棒呼ばわりする」
- 「退職勧奨や脅し」
- 「無視の命令」
- 「困難な仕事を与えて低評価にする、過剰なノルマ」
- 「パワハラの訴えを聞き流す」
そもそも多くのスポーツ選手は監督やコーチに対して反論したり、逆らったりするのが難しい状況にある。もしそのような事をしたらレギュラーから外されたり、不利な練習環境に変更させられたりすることが容易に行わる背景があるからだ。それに対して監督本人はもちろん、他の人間に相談しても「監督にも色々な考えがあるからね、仕方ないよ」みたいな言葉であっさり片づけられてしまう。それが分かっているから逆らえないのだ。
②「そもそも伊調馨さんは選手なんですか?」発言
これを聞いた時に「おいおい、何を言っているんだ(;一_一)」と思った人は大勢いるのではないかと思う。
谷岡学長によると、伊調馨はリオオリンピック以降、オリンピックを目指して練習はしていない。=選手でない、らしい
つまり谷岡学長はオリンピックを目指していない人間は、現在どんな環境で練習していようが、いまいが選手ですらないという事かな?
この発想はちょっとまずいと思う(;´Д`) 例えば会社の社長が「会社のノルマを達成できない人間は社員ですらない」と言っているのとほぼ同じ事になる。「ノルマ達成できない人は社員じゃないから、まともに労基法とか色々守らなくてもいいよね」みたいなブラック企業的思想に思える。
そもそも五輪4連覇という、女子レスリング界史上初にして国民栄誉賞まで受賞したレクリング界の最大の功労者に対して、全くリスペクト感のない発言に聞いていて悲しい気持ちになった。
まとめ
まず「この記者会見はちゃんと周囲の関係者と綿密な打ち合わせなどなく、谷岡学長が独断で実施したのだろう」ということが分かる。
今のタイミングでレスリング協会の副会長というトップクラスの権限を持つ者の発言が、どれほどこの問題に影響するのか。先にあった相撲協会の一連の報道を見てれば分かりそうなものだが、感情的に会見で話す様子はより自分達の状況を悪化させた自爆行為になりかねない。
自分は今後協会に行ってもらいたい事として、この問題を内閣府と相談しながら丁寧な調査を実施し事実を公表。パワハラがあったにせよ、無かったにせよ公益財団法人として、今後このような問題にどのように組織として取り組んでいくのか。それを示してもらいたい。
今回の会見で、レスリング協会のガバナンスやリスクマネジメントに対する対応のまずさ等、組織の課題が見えてきた。今後協会がどのようにこの問題に対応していくのか注目していきたい。